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短編集【庭球】

第46章 アクアブルーで抱きしめてI〔木手永四郎〕


「雨だけならいいですけどね…雷は危ないので」
「だーから言ったさあ、今日はやめとけってー」
「えーしろー、雨のにおいしてたのに、続けるって聞かねーんもんなー」
「犬並みに鼻が効くキミと一緒にされたら困ります」


恨めしげな視線を向ける平古場くんと甲斐くんを、木手くんがぴしゃりと黙らせる。
犬呼ばわりされた甲斐くんは口を尖らせてしょんぼりして、本当に犬みたいだった。


「ねえ、誰が一番強いの?」


近くに座っていた甲斐くんにそう尋ねると、彼はしょぼくれていた瞳を輝かせて「そりゃえーしろーやっし! なあ、凛?」と隣の平古場くんに話を振った。


「えーしろーには誰も勝てねーからよ」
「えーしろーの言うこと聞いてれば間違いないさー、ここまで来れたもんな?」
「ああ。今年こそ全国制覇さあ」


屈託のない笑顔の甲斐くんと、深く頷いた平古場くんを見て、みんな木手くんに全幅の信頼を置いているのだと思った。
心がささくれている今の私には、他人を信じて疑っていないその表情が、とてもまぶしかった。


私も、こんなふうに見えていたのだろうか。
別に本命のいる男を、何の疑いもなく自分のものだと信じていた私は。
彼らのように力強く、きらきらときらめいていたのだろうか。


彼らの視線の先にいる木手くんはオーナーと何か話していたけれど、私たちがあまりにじろじろと見るのが気になったのか、整った眉を少し寄せて怪訝そうな顔をした。
心の底から彼を信じている甲斐くんたちを裏切らないでほしいなと、祈るような気持ちになった。

裏切られるのは私だけで充分だ、だってこんなにも苦しいのだから。
そんなことを思いながら、色々なことを忘れるために沖縄まで来たはずなのにちっとも忘れられていないことに、苦笑いが漏れた。


* *


それから毎日、彼らは店に顔を出しに来た。
土日も関係なく、朝から夕方まで練習をしているのはさすがだった。
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