第46章 アクアブルーで抱きしめてI〔木手永四郎〕
「ちょっと甲斐クン、人を指差すなと前にも言ったでしょう」
その場の空気がぶるりと震えるような低い声がして、私の前の二人が後ろを振り返った。
「ウチの甲斐が失礼しました」と一歩踏み出してきたのは、変わった眼鏡をした男の人。
「いッ、いえ、そんな…こちらこそすみません、鈍臭くて」
そう口にしながら気まずくなって視線を足元に遣ると、彼らの周りには小さな水たまりができていた。
「気が利かなくてすみません、タオルお持ちします!」
「渚ちゃん? 何かあった…、おお、慧!」
私たちの声に何事かと奥から出てきたオーナーは、私への心配をさっさと途中で切り上げて、嬉しそうな声を上げた。
慧、と呼ばれたのは私とぶつかった人だったようで、「昨日帰ってきたんばあよ、優勝やっさー」と豪快に笑った。
呆気にとられながらバスタオルを取りに走る私を尻目に、オーナーと知らない男の人たちは喜びの舞を踊っていた。
オーナーに言われて全員分の飲み物を出しながら聞いた話を総合すると、こうだった。
私とぶつかった人は田仁志慧くんといって、オーナーの甥っ子だということ。
他の六人は、慧くんと同じ比嘉高校テニス部のメンバーだということ。
子どものいないオーナーは、彼らを自分の息子のように可愛がっているということ。
比嘉高テニス部はとても強くて、ここ数日間インターハイ予選の九州大会のために長崎に行っていたのだという。
九州大会では見事優勝して、今月末にあるインターハイにシード校として出場することになったのだとか。
まだある。
去年までこの店でアルバイトをしていたのは彼らだったということ。
今年は主要メンバーにとっては最後の夏だから、テニスに専念するために泣く泣くバイトを断ったのだということ。
私の部屋は、せめてもの罪滅ぼしにと彼らが大掃除してくれたらしい。
今日は体力強化のために、店の前の砂浜で素潜りや砂浜ダッシュの練習をしていたらスコールに降られたのだと、タオルで髪を拭きながら平古場くんがぼやいた。