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短編集【庭球】

第46章 アクアブルーで抱きしめてI〔木手永四郎〕


店の目の前はまぶしいくらいに真っ白な砂浜だけれど、ビーチというわけではないようだった。
砂浜を少し歩くとごつごつとした岩場が広がっていて、そこはどちらかというと海水浴客より釣り人がいそうな雰囲気。
海の家のような施設もないし、そういえば水着姿の人も昨日から一人も見かけていない。
なんだかもったいないという気もするけれど、コンクリートジャングルから身一つでやってきた私にとってはすべてが新鮮で、それはそれでいいのかもしれないと思った。



電話応対に慣れ始めてきた三日目。
お昼までは陽射しが痛いくらいだったのに、いつの間にか厚い雲が広がって、オーナーも午後のツアーを少し早めに切り上げて戻ってきた。
着替えたお客さんが帰って少しすると、視界がなくなるくらいの土砂降りになった。

「こんなの久しぶりさあ」とのんびり笑うオーナーはどこか嬉しそうだった。
雷鳴と一緒に、大粒の雨がばたばたとデッキを叩く激しい音が入ってくる。
少し透かしてあった入り口のドアをぴったり閉めようと取っ手に手をかけると、扉が逆に開いた。

え、嘘?!

まさかそんなことを想像していなかった私は、とっさに取っ手を離すことができなくて、ドアの動きに合わせて思い切りつんのめってしまった。


「きゃあ!」
「うお?!」


転ぶ、と思った瞬間に頭上から野太い声がして、続いて頬に濡れた服の感触。
どうやら転ばなくて済んだようだ、と理解しておそるおそる顔を上げると、目の前にいたのは声の印象通り、大きな大きな男の人だった。
つまり私たちは図らずも同じタイミングで扉に手をかけて、そうとは知らずに強くドアを引いたこの人に、私は激突してしまったらしかった。

ぎょろりと力のある目をいっぱいに見開いているその人と視線がかち合って、思わず「ご、ごめんなさい!」と身体を引く。
「大丈夫でしたか…? 本当にすみません」と頭を下げたら、壁のような大きな体の後ろからキャップをかぶった男の子がひょいと顔を出して「あ! やーが噂の新顔かあ!」と無邪気に私を指差した。
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