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短編集【庭球】

第45章 Midnight serenade〔白石蔵ノ介〕


昔からモテてきた、と思う。
社会人になってからも好意を寄せてくれる子は少なくなかったし、その中には客観的に見てかなり綺麗な子もいた。

でも、時折思い出したように酔っ払っては転がり込んでくる林のことが、やっぱり頭から離れなくて。
俺のことをなんとも思っていないからこそ、こんなに無防備なことができるのだろうと頭ではわかっているのに、それでも不思議と義理立ててしまって他の子とはまるで遊んでいないから、最近職場ではホモ疑惑まで浮上しているらしい。

一途と言えば聞こえはいいけれど、正直もうここまできたら、無駄に意地を張って我慢比べをしているようなもので。
そんなことを続けても報われないことは、これまでの経験上痛いほどわかっているのに、この関係をやめられなかった。

男として意識されていないのは苦しいし悔しいけれど、林を失うことの方がよっぽど嫌だと考えてしまう俺は、学生時代ヘタレだと散々バカにしてきた謙也なんかより、よっぽど重度のヘタレなのだと思う。





「電気消すでー」
「うん、ありがとう」


綺麗に焼酎まで飲み切った林が、シャワーの後俺の部屋着に着替えてベッドに入ったのを見計らって、照明を落とした。
真っ暗が好きだと言う林がいるときは、豆電球まで消すのがお決まりのパターンだ。
訪れた暗闇と適度なアルコールが、心地よい眠気を運んでくる。

あと数秒もすれば眠りに落ちる、という瞬間。


「……本当はな」
「………?」


闇の向こうからふと聞こえた、か細い声。
閉じようとする瞼を無理やりこじ開けて薄目を凝らしたけれど、林の姿は捉えられない。


「白石に会いたくて…わざと、終電逃したん」
「っ、…」
「途中で白石の顔が浮かんで離れんようになって、解散してから一人でバー行って…」
「………」
「白石のこと、好きみたいや」


アホ、俺はずっと前からごっつう好きやったっちゅーねん。
いや、アホは俺か。

好きで大切にしたいから、ともっともらしい理由をつけて踏み出すことから逃げ続けた挙句、女の子から言わせてしまうだなんて。
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