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短編集【庭球】

第45章 Midnight serenade〔白石蔵ノ介〕


上司と言い争いになったのだろうかとか、はたまた取引先の男にセクハラでもされたのかもしれないなんて無駄に嫌な方向にばかり膨らませていた想像があっさり裏切られて正直ほっとしたけれど、聞くだけならいかにも楽しそうな飲み会だから、逆に心配になる。

少し悩んで「なんか嫌なことあったん?」と声をかけると、案の定言いにくそうに「うーん…」と唸ったり首を捻ったり。


「まあ、言いたないこともあるよな、無理に言わんでええよ」


堪忍な、とつけ足そうとしたところで、林が口を開いた。

グループのメンバーの結婚式で余興を頼まれて、その話し合いを兼ねた飲み会だったこと。
みんな次々と結婚していて、林は完全に取り残されてしまっていること。
最近はその友達だけでなく、両親からも「結婚はまだなのか」と急かされていて、しんどいのだということ。


「私やって、ええ人おるんなら今すぐにでもしたいっちゅーねん」


深いため息に乗せて、林はそう吐き出した。
「あー、そういうことやったんや」と相槌を打ちながら、やっぱ俺のことはハナから眼中にないねんな、と込み上げてくる苦笑をかみ殺すのに苦労する。

俺、結構いいセンいってると思うんやけどな。

顔だって悪くない、というか控えめに言ってもかなりいい方だと思うし、仕事っぷりも悪くないはずだ。
稼ぎも同世代の男に比べたらある方だし、基本はカレンダー通りに休めている。
自分で言うのもおかしな話だけれど、こんなにスペックが高くても俺は林の言う「ええ人」にはなれないのだろうか。

いや、こんなこと口が裂けても言えないけれど。
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