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短編集【庭球】

第45章 Midnight serenade〔白石蔵ノ介〕


二日酔いなっても知らへんで、と視線だけで訴えると、林は「なあ、あかん? 飲み直そ? 私だけ酔ってるん、淋しいやんかー」と眉尻を下げた。
ふにゃん、とまるで毒気のない笑顔は、俺の判断力をことごとく鈍らせる。

まあええか、明日休みやし。
ほんま、俺は林に甘すぎるよな。

そう思いながらも、少し汗をかいた缶を受け取ってプルタブを開けてしまう。
今飲まずに取っておけば、また俺の部屋に来る理由が一つ増えるだなんて、無意識にせこい計算をしていた自分が恥ずかしい。


「はい、かんぱーい」


底抜けに明るい声とともに、林の持つ缶ビールが俺のそれとぶつかった。
酔うと陽気になる林と飲む酒は、楽しいから美味い。

ぐい、と缶をあおると林がこちらを見つめて「おいしい? やっぱ買ってきてよかったわー」なんて満面の笑みで言うから照れくさくなって、いつのまにかテーブルの上に広げられたつまみにそっと視線を移した。
柿の種と貝ひも、それに焼酎。
相変わらずおっさんかっちゅーセレクトやな。


「さっき飲んでたらえらい気持ちようなってな、あーこれが白石の言うエクスタシーなんやなって思ったで」


「仮にも女の子がエクスタシー言うんはあかんやろ」と突っ込むと、林は「え、そうなん? やっぱやらしい意味で使ってたんや! しらいしのすけべー、会社で言いふらしたろー」なんてころころ笑って。
「それはあかん!」と言いながら、こういうあけすけなところが好きやねんな、と思う。




「そいや、こんな時間まで誰と飲んでたん?」


一本目の缶ビールを飲み干して二本目に口をつけようとしたら、深夜一時を回った壁掛け時計が目に入った。
何気なくそう尋ねると、林の顔がすう、と曇って。
少しの間のあと、大学時代の仲良しグループで女子会をしていたのだと言って、力なく笑った。
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