第45章 Midnight serenade〔白石蔵ノ介〕
二度目も三度目も、似たような不可抗力で林が終電を逃して、という流れだった。
それがいつ頃からか、一緒に飲んで遅くなると終電前でも泊まっていくようになって。
挙句、残業で遅くなった日や、クライアントとの飲み会の日にも、ここに来るようになった。
もう両手両足の指でも足りない数の夜を、二人で過ごしてきた。
勢いでベッドになだれ込むことだって、その気になれば簡単にできたと思う。
正直に言えば抱きたい気持ちは山々だったし、シャワーを浴びた後の林の濡れた髪を見て変な気が起きそうになったことも一度や二度ではないけれど、抱くならそれなりの関係になってから大事に抱きたくて、互いにどれだけ酔っていても過ちは犯さなかった。
一時の気の迷いで「かけがえのない同期」と「大切な人」を一度に失いたくはなかったから、その一線は頑なに守ってきた。
事情を知らない人からすれば俺たちは付き合っているように見えるのだろうし、実際何度もそう聞かれる。
そのたびに笑って否定するけれど「それにしたって仲よすぎやろ」と怪訝な顔をされるのがオチだった。
今日は飲んでいたら終電を逃したそうだ。
当たり前のようにそう連絡があったのは、三十分前。
金曜の夜だというのに、俺に彼女がいたらどうするつもりなのかと呆れてみるけれど、実際いないのだから笑えない。
うちをネットカフェか何かと勘違いしているんじゃなかろうかと、苛立つ気持ちがないわけではない。
けれど、なんだかんだとそれを許してしまうし、そして密かに連絡を心待ちにしていたりもする。
結局恋愛は惚れさせたモン勝ちで、なおかつ俺はもう逆転不可能なほどの大負けを喫しているらしい。
いいように利用されているだけなのかもしれないという忸怩たる思いよりも、それでもいいかとほだされてしまうのが常だった。
「これ、白石のぶん」
「もう充分飲んできたんやろ、やめとこな」とコンビニ袋を取り上げようしたところで、目の前に缶ビールが差し出された。
お、この高級ビール期間限定のやつやん…ってそうやなくて。