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短編集【庭球】

第45章 Midnight serenade〔白石蔵ノ介〕


*社会人設定






ドアを押し開けた瞬間の、そこはかとないアルコール臭。
いらっしゃいと言うより先に、どんだけ飲んだねんって突っ込みそうになった。


「しらいしー、いつもごめんなあ」


いつもより舌足らずでゆっくりと、しかしひどく陽気な声で笑った林の手には、缶ビールと焼酎、そしてつまみの入ったコンビニの袋がしっかりと握られていた。
まだ飲むんかい。


「…はいはい。わかったから、突っ立っとらんと上がり」
「ん、お邪魔しますー」


見事な千鳥足のくせに、ヒールの高いパンプスでよくここまで歩いて来られたものだと感心する。
ふらつく足元が危なっかしいから、というもっともらしい言い訳を自分自身にして、華奢な身体を支えた。
無駄なく鍛え上げてきた自分のそれとは違う、ふわふわとした柔らかさに、どきりとした。





会社の同期として出会って、もう六年になる。
飾らない性格で仕事もしゃきしゃきこなす林とは、他の男の同期よりよっぽどウマが合って、しょっちゅう飲みに行った。
仕事の愚痴も、二人でいると笑い飛ばせて、心地よかった。


俺の部屋に初めて来たのは、一年目の秋だったか。

いつものように飲んでいたら、偶然同じ店に居合わせたらしい面倒な先輩が乱入してきて、互いにあっさり終電を逃してしまった。
給料日前、実家から一時間半かけて通勤してくる林のタクシー代を捻出するような財布の余裕は、新入社員だった俺たちにはなくて。
会社から近い俺の家に泊まることに落ち着いた。

俺がソファで、林がベッドで寝て、文字通り何もなく朝になった。
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