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短編集【庭球】

第44章 誰が為に花は咲く〔跡部景吾〕


* *


花火大会のラストスパート、スターマイン。
色とりどりの花火が次々と打ち上がって、真昼のような明るさになる。
最後に大輪がどん、と咲いて、自然発生的に拍手が沸き起こった。


「終わっちゃったね。…帰る?」


いつまでたっても空を見上げたままの跡部にそう声をかけたとき、会場アナウンスが遠くから聞こえてきた。


『林渚さまー、林渚さま』
「えっ! やだ、私、呼ばれてる? なんで…」
『今大会に多大なご協力をいただいております跡部グループより、花火の贈り物です。どうぞご覧ください』


信じられないことばかりを知らせてくるアナウンスが終わらないうちに、再び打ち上げが始まる。

金色の火の粉がきらきらと長い尾を引く「冠菊」。
華やかでいてどこか儚い美しさのそれが、私は一番好きだ。

そんなことは一言だって言ったことはないはずなのに、見事に冠菊ばかりがいくつも上がって、目が離せなくなる。
一際大きな四尺玉なんて、光の粒がいつまでも枝垂れるから、手を伸ばせば届きそうなくらい。





結局、当初ラストスパートだと思っていた連続花火よりも、よっぽど長くて華やかな最後だった。
そして私の家の前に来るまで、私たちは手を繋いだままだった。


跡部グループが花火大会のメインスポンサーだったのを利用して、昨日一緒に行く約束をしてから急遽準備をさせたのだと、帰る道すがら跡部が種明かしをしてくれた。

金色の冠菊ばかりだったのは、跡部が一番好きだから、らしい。
なんでも、菊の花言葉は「高貴」なのだとか。

「私も一番好き」と言うと「珍しく気が合うな」と笑われた。
「跡部のことも同じくらい好き」と続けたら、二度目のキスが落ちてきた。


fin





◎あとがき

お読みいただき、ありがとうございました。
跡部と花火大会デート、いかがでしたか。

いつも堂々としていて気障な台詞を恥ずかしげもなく吐く跡部さまも大好きなのですが、こんな照れ屋の跡部も等身大っぽくていいなと思っています。
極度の意地っ張りなのに気にしいなヒロインちゃんは、まるで自分のことを書いているかのようで、恥ずかしさからなかなか筆が進まず、心が痛みました笑
ああ、でも跡部さまと花火大会なら毎日でも行きたい!

少しでも楽しんでいただければ嬉しいです。
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