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短編集【庭球】

第6章 DNA〔切原赤也〕


三年生の引退後、赤也は部長になったから、以前にもまして大変そうだ。

全国で一番強い幸村くんの後を継ぐのが、精神的にも体力的にもハードなのは、端から見ているだけの私にでもわかる。
赤也がつらいときに支えてあげられたらいいと思っていたけれど、具体的に何ができるのかは想像もつかなくて。

結局、久々の休日になった今日も、ノープランで赤也の部屋に遊びに来てしまった。
赤也は来てくれて嬉しいッス、と言ってくれたけれど。
本当は丸一日寝かせてあげた方がよかったのかもしれないし、テニスのことを忘れられるようにどこかへ遠出した方がよかったのかもしれない。
あるいは、思いきり笑えるようなDVDでも借りてきたほうがよかったのかもしれない。


でも、ふと私の口をついて出たのは、どうでもいい授業の話で。
気が利かなくてごめんね、と心の中でこっそり赤也に謝った。




「で、そのユーセーイなんとかって?」

赤也の声で、現実に引き戻される。
「優性遺伝子、ね」と訂正して、簡単な説明をした。

両親からそれぞれの遺伝子を受け継いで、子どもの特徴が決まるということ。
遺伝子には優性と劣勢の二種類があって、優性と劣勢をあわせ持った場合には、優性の特徴が現れるということ。
髪については、くせ毛が優性、直毛が劣勢だということ。
遺伝子の組み合わせは、くせ毛が二つか、くせ毛と直毛が一つずつか、直毛が二つか、の三種類しかないから、くせ毛の人が必然的に多くなるということ。


赤也はわかったようなわからないような反応をしていたけれど、血液型ではO型が劣勢遺伝子なんだよと言ったら理解したらしかった。

少しだけ距離を詰めて、赤也は私の直毛の髪をさらさらと梳く。
赤也のあたたかくて大きな手が心地よくて、私は目を閉じて、赤也の肩に軽く頭を預けた。
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