第6章 DNA〔切原赤也〕
「ねえ赤也、くせ毛って優性遺伝子なんだって。知ってた?」
「は? ユーセーイデンシ?」
「そ。こないだ授業で習って、教えてあげようと思ってたの」
「ユーセー…? ゲームかアニメの新しいキャラ?」なんて怪訝な顔をしているから、少し笑ってしまった。
隣でぽかんとしている年下の恋人とは、付き合って二か月になる。
クラスメイトで席が隣だった幸村くんが、入院したのがきっかけだった。
先生から託されたプリントや授業のノートを、頻繁にお見舞いに行くテニス部の面々に手渡しに行くようになって。
しばらくは知り合いのジャッカルに毎日頼んでいたのだけれど、ロードワークでいないときにどうしようか困っていたら、声をかけてくれたのが赤也だった。
話したことのあったジャッカル以外は、初対面で気軽に声をかけたり頼みごとをしたりするのが、正直はばかられるメンバーばかりだったから、赤也の気遣いにとても助けられたのをよく覚えている。
その日から妙に懐かれて、練習見てってくださいよ、なんて誘われるようになって、他の三年生たちとも徐々に仲良くなった。
三年生に必死に食らいついてテニスをしているのが印象的だった。
何度跳ね返されても、いつも全力で向かっていく赤也は悔しそうなのにとても楽しそうで、つい応援したくなってしまって。
いつの間にか私にも一生懸命アプローチしてくれるようになったのだけれど、好きという言葉に嘘がないのが伝わってきて、それが嬉しくて。
「赤也くん」だった呼び名が「赤也」に変わったのは、全国大会が始まる頃だった。