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短編集【庭球】

第43章 えそらごと〔柳蓮二〕


恥ずかしすぎて柳の顔を見られずにいたら、頭に大きな手がぽん、と降ってきて、そのまま優しく髪を撫でた。


「肝心の確率だが、五十パーセント程度だった。残りは俺の希望的観測だ」
「………」
「まったく、データに笑われてしまうな。林のことになると、途端に冷静な判断ができなくなる」
「………」
「だが、この反応を見る限り、林の想い人が俺である確率は百パーセントだと考えて差し支えないだろうか」


珍しく目を見開いた柳が、腰をかがめて私の顔を覗き込む。
私の視線を捕らえて離さない切れ長の瞳が、柔らかく微笑んだ。
かろうじて頷くと、柳の「そうか、それはよかった」という言葉に重なって、昼休み終了五分前を知らせるチャイムが鳴った。


「このままここで、二人でサボるか?」
「いッ?! いいえっ!」


その大胆さに驚いて、ぶんぶんと首を振る。
壊れたロボットのような片言で、我ながら緊張しているのが丸わかりで格好悪いし、何より恥ずかしい。
「残念だが、大学教授になるためには成績も必要だからな」と笑う柳は、いっそ悔しくなってしまうくらいにいつも通りで、やっぱりからかわれただけだったんじゃないかという気がして。

借りていく本の山を抱えて「林も遅れないようにな」と歩き出した柳を、うん、と言いながら見送っていると、柳がドアの前でちらりと振り返った。


「…単なる絵空事では終わらせないから、そのつもりでいてくれ」


そのまま柳は、私の返事を待たずに出ていった。
急に静まり返った図書室に、私の呼吸音と心音だけがやけに大きく響く。

そのつもりでって、どういう意味だろう。
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