第42章 いつか王子さまが〔鳳長太郎〕
長太郎の顔を見られなくて、段ボールに印字されたメーカーのロゴを見つめた。
箱の中でボールの缶同士がぶつかるカコカコという音の隙間に、隣で長太郎が困ったように笑って、それからすう、と細く息を吸ったのが聞こえた。
「私なんか、って言うの、やめてください」
「え?」
「俺の好きな人の悪口、言ってほしくないです」
「…え?」
「俺、そんなできた人間じゃないんで…いくら先輩だからって、許せないです」
横を歩いていた長太郎が急に足を止めたのにつられて、私も一歩先で立ち止まった。
振り返るべきか、振り返らざるべきか。
私は今、どんな顔をしているのだろう。
「長太郎…?」
ゆっくり振り返って、名前を呼ぶ。
自分から続きを促したくせに、その続きを聞くのが怖い。
聞きたくないのだけれど、荷物を抱えた両手では耳を塞ぐことはできなくて、せめてもの抵抗とばかりに目を閉じた。
お願い、私の愚かさに、どうか気づかないでいて。
「…俺、先輩が好きです。ずっと、好きでした」
とっくの昔に長太郎は、私の中で特別な存在になっていたのだと思う。
無駄だと思いながらも、心のどこかで微かに望んでいたことなのに、胸が苦しくて。
自分が少し泣いていることを理解したのは、呼吸がままならなくなったからだった。
「なんで…こんな、私、男みたいなのに」
「そんなことないです。仕事は楽じゃないはずなのにいつも笑ってて、一生懸命で、優しくて…嘘が吐けないところも、すごくかわいいです」