第42章 いつか王子さまが〔鳳長太郎〕
そのどれもがとてもありがたくて嬉しかったけれど、普段縁遠いことなだけに、どう反応すればいいのかいまいちわからなくて。
雌猫、もといファンの女の子たちのように可愛らしく「きゃー、ありがとう!」なんて言えればよかったのかもしれない、と思うのはいつも家に帰ってからで、時すでに遅しというやつで。
自分にまだ女としての感覚が残っていることを思い知らされると、なんだか悪いことをしているようで居心地もよくなかった。
長太郎の優しさを受け取るだけ受け取って、返せないでいるうちに時間だけが過ぎている、というのが実情だ。
何はともあれ、長太郎の「お姫さま」発言による爆笑は相当根が深くて、ちょっとやそっとじゃおさまらなかった。
私も笑わなければいけないような気がして軽く笑っておいたけれど、長太郎だけは「ちょ、なんで笑うんですか! 本当のことじゃないですか、ひどいなあ、もう」なんて真剣に否定していた。
長太郎はまっすぐで優しいから、きっと誰に対しても同じことをするのだろう。
言ってみれば、単なる社交辞令なのかもしれない。
そう思うと、やるせなくて虚しくて、いても立ってもいられなくなって。
そして、そう感じてしまうことが無性に恥ずかしくて。
「…もう、いいから、ほんとに」
立ち塞がった長太郎を半ば突き飛ばすように部室を出て、テニスコートへ走った。
雨はびっくりするくらい冷たくて、顔が熱くなっていたのだと知った。
シンクでジャグを洗いながら、また自分の不器用のせいで長太郎の厚意を無駄にしてしまったと、ため息が出た。