第42章 いつか王子さまが〔鳳長太郎〕
恥ずかしい話だけれど、私は自分が「お姫さま」なるものとは対極の存在であることを、痛いほどに自覚している。
人よりかわいいわけでもなければ美人なわけでもない。
男兄弟に挟まれているせいだということにしているけれど言葉遣いもがさつだし、髪もショートカットだし、ボールの缶を開けるときによく折れてしまう爪は長さがバラバラだし。
なんなら滝の方が、私なんかよりよっぽど身なりに気を使っているとさえ思う。
でも、だからこそ、氷帝学園の全女子を敵に回しかねないマネージャーという職務を全うできるのだ。
ファンの女の子たちのことを跡部は雌猫呼ばわりするけれど、マネージャーが「メス」の一面をちらりとでも見せようものなら彼女たちから袋叩きに遭うということは、次々と辞めていった子たちを見ていれば一目瞭然だった。
もともと持ち合わせていた「メス」要素が少なかった私は、かろうじて残っていたそれを完全に封印して仕事をしてきて、ふと気がついたときには、何人もいたはずのマネージャーは私一人だけになっていた。
そんな私を部員たちは、冗談半分本気半分で男のように扱った。
雌猫たちも、林なら敵じゃないし安心だと思ってくれたのか、風当たりはいくぶん和らいだ。
それは、部員たちにとっては最後に残ったマネージャーを繋ぎ止めるための、私にとっては身の安全を確保するための、たった一つの手段で。
この仕事に誇りを持って、私自身も納得して女を捨てたはずだったけれど、時折心がざわめくことがあった。
それは、長太郎がふと、私のことを女の子として扱ってくれるとき。
ドリンクで満タンのジャグを無理やり三つ運んでいて危うく転びそうになったとき、さりげなく助けてくれて、一つでいいと言ったのに「重いもの持つのは男の役目ですよ」なんて二つ持ってくれた。
私の誕生日を覚えていて、購買で人気のプリンをわざわざ買ってきてくれた。
冬の部内会議中、ひどい生理痛を前かがみになりながら耐えていたら、何も言わずに膝にマフラーをかけてくれたこともあった。