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短編集【庭球】

第42章 いつか王子さまが〔鳳長太郎〕


氷帝の部室が爆笑の渦に包まれたのは、庶民文化を知らなすぎる跡部が無意識のうちにボケたからでもなければ、忍足が関西人を気取ったつまらないギャグを口にしたせいでもなかった。
「渚先輩はお姫さまですから」なんて、当事者である私がぽかんとせざるをえないほどぶっ飛んだことを言ったからだ──よりによって、いつも笑いを取ることから一番遠いところにいる気がする、長太郎が。


その日は練習中、空が暗くなったと思ったらあっという間に土砂降りの雨が降り出して、みんな急いで部室へ避難した。

いきなりのことにずぶ濡れになった部員たちにタオルを配っていた私は、スポーツドリンクを入れているジャグを回収するのをすっかり失念していて。
コートサイドのベンチに放置されていたそれを目ざとく見つけた跡部に「おい、ジャグ置きっぱなしになってんぞ! さっさと取って来やがれ」と怒鳴られて、しまったと思いながらのそのそと部室を出ようとした私を「ダメですよ、こんな雨の中、傘もないじゃないですか」と止めたのが、長太郎だった。

「ほら、キングがお怒りだし」とわざと跡部にも聞こえるように言ったのに、長太郎は扉の前で私を通せんぼして「とにかく、濡れちゃダメです」と繰り返した。


そして満を辞してぶっ放したのが、件の「渚先輩はお姫さまですから」発言。


たっぷり五秒は沈黙が続いたと思う。
忘れもしない、ぷっと最初に吹き出したのは岳人だった。
普段表情を変えない樺地でさえ困った顔をしていたから、相当可笑しかったのだろう。

宍戸に至っては「長太郎、気は確かか?」なんて失礼極まりない発言で、いたたまれなさをひしひしと感じていた私に追い打ちをかけてきた。
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