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短編集【庭球】

第41章 All of me〔仁王雅治〕*


ゴミ箱の中に、ひとつだけ先客がいた。
洋服か何かのタグ。
何気なく見ると、「ショーツ」「ヒップ」「ブラック」なんてカタカナが並んでいて。
今日のために、新しく買ったTバックのショーツを下ろした──そんなストーリーが頭に浮かぶ。

…なんじゃ、杞憂か。
俺も愛されちょる、ってことでええかのう。

一気に機嫌が直ってしまうなんて単純だと思いつつ、けれど安堵感と嬉しさは止めようがなくて。
ティッシュでぐるぐるに包んだブツをゴミ箱へ放り込んで、渚の待つソファへ戻る。
隣に座って、その唇に食らいついた。




「…元気ね、朝からテニスしてたんじゃないの?」


長いキスのあと、俺の下半身をちらりと見て渚が苦笑した。
炎天下で一日中走り回っていたのにこんなに体力が余っていたのかと、言われて初めて気がつく。
真田にバレたら、間違いなくグラウンド五十周の刑に処されるだろう。
夕方跡部との試合を終えたときには、疲れ果ててもう一球勝負さえやりたくないと思ったはずだけれど、渚とならいくらでもできそうな気がするから不思議だ。


「男子高校生の性欲、ナメたらあかんぜよ」


格好よくはないけれど、こうして彼女に溺れるのもいい。
諦めたような、けれどほんの少しの期待をにじませたため息を吐いた渚の頬を一撫でして、衝動に任せてまた口づけた。


fin





◎あとがき

お読みいただき、ありがとうございました!
歳上彼女と高校生仁王の一連のお話は、一応これにて完結です。
いかがでしたでしょうか。

公式では好きな女性のタイプについて「かけひき上手な人」と答えている仁王。
でもいざ本気になってみたら「かけひきなんて楽しめない、そんな余裕ない!」なんて感じになっていたらいいな、という個人的な願望を並べました。
かっこいい仁王ももちろん大好きだけど、かっこ悪い仁王も、それはそれで大好物なんです…!

タイトルは前の二作がジャズの名曲縛りだったので、今回もそれにならいました。

少しでも楽しんでいただければ幸いです。
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