第41章 All of me〔仁王雅治〕*
ゼロに限りなく近い、けれどゼロではない。
コンマ以下何ミリかの薄いラテックス越しの行為は、今の自分たちの関係を象徴しているかのようで。
生き物のようにうごめく渚の中心を、襞のひとつひとつの感触まで余すところなく感じていても、それでもひとつにはなれない。
夢中で腰を振ってその思いを振り払おうとするけれど、自分の下で乱れる彼女は近いようで遠くて、届きそうで届かない。
「す、き…っ、まさ、はる」
「ん…?」
「名前、呼んでほし、いっ、んんッ!」
耳に直接名前を落とそうとのしかかるように体重をかけると、さらに深くまで刺さった。
構わずそのまま動き続けると、彼女は喉を逸らして快感を享受して、俺を締めつけながら果てて。
それに引っ張られそうになりながらなんとかやり過ごしていると、渚は弾んだ息の隙間に、また「すき」と呟いた。
汗ばんだ額にかかった前髪を避けてやりながらそっと口づけて、また打ち込みを再開する。
好きだとか愛しているだとか、そんな甘い囁きは、必要でないときは言わないと決めている。
その言葉の価値を、ひいては自分の価値をできる限り高めておきたいだなんて柄にもないことを考えてしまうのは、自分に自信がないからだ。
女は肩書きが好きだ。
同世代の女にとって「立海レギュラー」の肩書きがこれ以上ないキラーコンテンツだということは、これまで身をもって体感してきたけれど。
名刺も持たない俺は、彼女の前ではただの高校三年の仁王雅治、でしかない。
持ち合わせているのはせいぜい生徒手帳と健康保険証くらいのもので、何しろ車の免許さえないのだ。
それがどれだけ心もとないことか。