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短編集【庭球】

第41章 All of me〔仁王雅治〕*


状況を掴んだのだろう渚が、耳まで真っ赤にして「え、ちょっと、雅治?」と俺の名前を呼んだ。
窮屈だろうに顔だけ振り返って、非難と期待とを半々にたたえた瞳で俺を見上げて。
自分とは違う柔らかい身体が腕の中で身じろぎして、それだけでもう、たまらなくなる。

せめてベッドまではと思っちょったけど、もう我慢できん。

「行き先階ボタンを押してください」と催促する声を聞いて何か言いかけた渚の唇に、噛みついた。
言葉も吐息も、何もかも奪うように。



ぴたりとスカートに包まれたヒップラインを何度も撫で上げていると、ふと冷たい場所を見つけて手が止まった。
さっき車で意識を飛ばすほどに達していた、その残痕。
唇を離したあと「お漏らしでもしたんかのう」とからかうと、渚は真っ赤になって視線を逸らして「…っバカ、だからさっさと部屋行きたいんだってば」と小さく言って、唇を噛んだ。

さっきからそわそわと落ち着かないのはそういうことかと合点が行くのと同時に、無意識に口角が上がるのを感じた。
さすがにこんなに派手に汚してしまっては、クリーニング行きだろう。
しばらく職場にこのスカートを履いて行くこともないはずで、ほんの少しだけ溜飲が下がる。
そしてどうせクリーニングなら、もっと派手に汚してしまえばいい。


「見せつけてやりんしゃい、私こーんなエッチな女なんです、ってな」
「や…だ」
「さっきも他の車のやつから見られて興奮しちょったろ?」
「そんなこと、な…い、んッ」
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