第41章 All of me〔仁王雅治〕*
*裏注意
*仁王=高校三年、ヒロイン=社会人二年目設定
*第10章「Body & Soul」(P47〜53)の直後のお話
*時系列順に並べると、第37章「この素晴らしき世界」(P218〜228)→第10章→本作
*第37章は読まずともまったく問題ありませんが、第10章は読まないと理解に苦しむかと思います。お手数ですがぜひご一読ください
最上階に止まっていたエレベーターが、静かな音を立てて降りてくる時間さえ惜しいと。
ディスプレイの中で減っていく数字を今か今かと見つめる、そんな余裕のない自分にうんざりする。
テニスのときもこんな必死にならんのに、渚のことになるとてんでダメじゃのう。
少しでも格好つけたいのは山々だけれど、彼女の前ではいつも計画倒れになってしまう。
今日だって本当は、彼女が前に行ってみたいと口にしていたカフェに寄ろうと言うつもりだった。
車のドアを開けて彼女の装いを見た瞬間、その提案は自分の頭から吹き飛んでしまったけれど。
直球の誘惑にもれなく乗ってしまうのは、十代男子の悲しい性だ。
でも、もっと言えば礼儀でもあると思う。
せっかく誘ってもらったのだから、精一杯応えるのが男としてのマナーだろう。
こんなことを言うと、紳士然とした相棒からは「マナーを履き違えないでくれたまえ」とかなんとか、お咎めを食らうだろうけれど。
据え膳食わぬはなんとやらっちゅうし、と堪え性のない自分を無理やり正当化して、伸ばした後ろ髪を指でもてあそびながら、横顔を盗み見る。
車の中では気がつかなかったけれど、ずいぶんヒールの高い靴を履いているらしい。
隣に並ぶと、綺麗に化粧した顔が、その気になればすぐにキスしてしまえそうなほど近くにあった。
下へと視線を動かせば、タイトスカートに黒のパンスト。
仕事着のパンツスーツか、休日のカジュアルな格好しか見たことがなかったから、もはや別人にも思えるほど対極のファッションだ。