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短編集【庭球】

第40章 Key〔財前光〕


きょろきょろと視線を動かす、真剣な表情。
シャープな顎のライン、いくつも開けたピアス。
もともとどこか達観した雰囲気で、同世代の男の子とは一線を画したような子だったけれど、しばらく見ない間に年不相応なくらいに大人っぽくなっていて。
その横顔がゼミの男の子たちよりよっぽど色っぽくて、どきりとする。

いつまでもかわいい後輩、と思っていたのに。
やだ、何考えてるんだろ、とかぶりをふって、鍵探しを再開する。



結局、いくら探しても鍵は出てこなかった。
もう諦めて、明日事務室を訪ねてみるしかないなと腹をくくる。
付き合わせてごめんね、と謝って大学を出たところで、財前が「交番。交番は行ったんすか」と口にした。


「え、あっ! ううん、行ってない」
「なんで行ってへんのですか、落とし物したら交番って常識やろ」
「いや、そうなんだけど頭回ってなくて…」


確かに、どうしてそんなに基本的な選択肢を忘れていたのだろう。
何度目かわからない盛大なため息に、これまた何度目かわからない謝罪をして、交番へ向かう。


鍵を探していることを中年のお巡りさんに話すと、キーホルダーがついているかどうか尋ねられた。
食品サンプルのストラップがついていると言うと、データベースで調べたり電話してくれたりして、結局私の家の最寄駅近くの交番で保管していると教えてくれて。
灯台下暗しというのか、さっきまで必死になって探していたのが嘘のようで、思わず隣にいた財前の腕を握ってしまって、慌てて離した。
そっと横顔を盗み見ると、いつもと同じ、何事もなかったような涼しい表情。

私ばかりがどきどきしているなんてバカみたいだ。






「本当、本っ当にごめん、この通り!」
「はあ、まあええっすけど。信じられんすわほんま」


無事手元に戻ってきた鍵を今度こそは離すまいと握りしめて、何度も平謝りする。
ことのほか冷たい視線をこちらへ投げた財前が、ふと口を開いた。


「ご褒美は?」
「え?」
「ご褒美。くれへんのですか? 前はようくれとったのになあ」
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