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短編集【庭球】

第40章 Key〔財前光〕


財前は予備校帰りだったらしい。

「そっか、もう受験生かあ」と呟くと、「当たり前やないっすか、何言っとるんすか。去年は先輩が受験やったんやから」と厳しい言葉が返ってきて、思わず苦笑が漏れた。
歳が一つ違うのだから当然だし、財前が白石の後を継いで部長を頑張っていることも、しかも白石よりも厳しく部を率いていることも知っているのだけれど。
中・高とテニス部のマネージャーとしてそばにいた私の中では、財前は今でもまだ生意気でかわいい二年生、なのだ。


私と違ってデジタル方面にめっぽう強い財前は、案の定スマホのモバイルバッテリーを持ち歩いていた。
快く貸してくれた、わけでは決してなかったような気がするけれど、ありがたく拝借する。

朝からずっと大学にいたこと、家から駅までの道にも駅舎にも鍵がなかったことを話すと「なら大学行くしかないやないすっか」とあっさり言われて、同意するしかなかった。
さっきは大学へ戻るのは気が進まないと思っていたけれど、財前がいると不思議とそうは思わなかった。





大学の最寄駅にもキャンパスまでの道のりにも、案の定というかやっぱりというか、鍵は落ちていなかった。

昼間なら誰かに見咎められたかもしれないけれど、完全に日が落ちて人もまばらなこの時間なら、学生服にラケットバッグ姿の財前を大学に連れて入るのも容易い。
学食まで案内して、手分けして半分ずつをくまなく探す。
落ち合ったところで見つからなかったことを確認し合うと、財前がまたため息をついた。


「どっかに合鍵はあらへんのすか? バイト先のロッカーに入ってるとか、彼氏に渡してあるとか、あるんちゃうんすか、予備のひとつくらい」
「母親には一応預けてあるんだけど、昨日から旅行出ちゃってて…」
「あー…探すしかないっちゅーことやな」
「すみません…」


もう一度探してみようという話になって、再び解散する。
テーブルの下を覗き込むと、少し離れたところで同じようにしゃがむ財前が見えた。
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