第40章 Key〔財前光〕
「やばい、なんで…」
私何か悪いことでもしたっけ、と思ってももう遅い。
ため息を吐き出したら、右肩に背負ったトートバッグの重さが一気に倍になった気がした。
よりによって今日は朝から講義がびっしり詰まっていたから、荷物が多いのだ。
慣れないサンダルに、足も限界が近い。
今日のところは友達の家に泊めてもらうのがいいかもしれない。
そう思って駅前のベンチに腰かけてスマホを取り出したら、最悪なことに充電切れだった。
ひどい、なんでこんなに踏んだり蹴ったりなの?
もう、と天を仰いだら、懐かしい顔が私を覗き込んでいた。
「何しとんすか、こんなとこで」
「財前!」
ベンチから滑り落ちそうになりながら名前を呼ぶと、その響きがすごく久しぶりで、高校を卒業してからもう三か月も経ったのかと不思議な感慨が押し寄せる。
同時に、ようやく味方を見つけたような、うっかりすると涙が溢れそうなくらいの安堵感も広がって、「ナンパ待ちならやめといた方がええと思いますけど」なんて彼らしい嫌味を投げつけられてもあまり気にならなかった。
「お願いがあるの!」
「なんすか急に。嫌っすわ」
「ちょっと、まだ何も言ってないじゃない」
さっさと歩き出そうとする財前に泣きつくように事情を説明すると、盛大なため息が返ってきた。
「はあ? 嫌っすわ」
「そこをなんとか…」
「なんで俺が尻拭いせなあかんのや」
「こっちも恥を忍んで頼んでるの! ね、この通り!」
「……しゃーないっすわ」
押しに押して、なんとか了解を取りつける。
そういえば昔から、本当に困っているときにだけ助けてくれるタイプだったな、なんて思い出す。
愛想が皆無なところは相変わらずな後輩と、私は再び鍵探しの旅に立ち上がった。
一人よりも二人の方がいいに決まっている。