第40章 Key〔財前光〕
*財前=高校三年、ヒロイン=大学一年設定
「……ない」
ない、ない、ない。
バッグをあさってみても、教科書の間に挟まっていないかとばさばさと振ってみても、ポケットというポケットに手を突っ込んでみても。
部屋の鍵が、どこにもない。
暑さのせいではない、焦りからくる嫌な汗が、ぞわりと吹き出すのがわかった。
一人暮らしを始めて三か月、林渚、最大のピンチ。
「どうしよ…」
落とした?
それとも盗まれた?
いや、怖いから後者の可能性は考えたくない。
落としたのならどこだろう…、ああもう、頭が空回りしてスムーズに思い出せない。
部屋の前でしばらく記憶をほじくり返したけれど、ここにいたところで鍵が出てくるわけじゃない。
汗をかいたから真っ先にシャワーを浴びたかったのに、おろしたばかりのヒールのサンダルが痛かったから早く脱ぎたかったのに。
そんな思いを振り払って、私は来た道をきょろきょろしながら引き返した。
最寄りの駅までせいぜい五、六分の距離を、住宅街へ帰る人の流れに逆らいながら二十分かけて歩く。
目を皿のようにってこういうことだろうというくらい必死になって探したけれど、やっぱりない。
落とし物の中に鍵がなかったかと駅員さんに尋ねても、返事はノー。
腕時計に目を落とすと、七時半を少し過ぎていた。
今から大学へ戻って探すこともできるけれど、講義で行った教室はすべて施錠されているだろう。
誰か拾ってくれた人が事務室に届けてくれていたとしても、事務室も夕方で閉まっている。
せいぜい学食を見て回るのが関の山。
それに何より、疲れ切ってやっと帰ってきたのに、また大学へ行くのは気が進まない。