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短編集【庭球】

第39章 蜜約〔千歳千里〕


千歳の目が私のことを捉えられなくなったら、私はたくさん話して、歌ってあげる。
千歳は私に触れて、私の存在を確かめればいい。
そもそも離れなければいい、ずっと一緒にいればいい。
私は千歳と違って、居場所も言わずに失踪したりしないから。
目が見えないのにかくれんぼの鬼なんて、嫌でしょう?


そう伝えると、千歳は嬉しそうに笑った。
吐息がくすぐったくて、それを避けようと横を向いたら、そのまま唇が重なって。


「なら、心配なかね」


千歳の漆黒の瞳に、私が映っているのが見えた。

千歳くらい背が高かったらどんな景色が見えるのだろうと思ったことがあったけれど。
もし千歳の目にタイムリミットがあるなら、その最後の一瞬まで、同じ景色を見よう。

そんなことを思いながら、もう一度唇が重なる予感に任せて、私はゆっくり目を閉じた。



fin





◎あとがき

お読みいただき、ありがとうございました。
さらっと軽めの桃夢から一転、ずいぶん久々の千歳、いかがでしたか?

千歳の目のお話は、いつか書いてみたいと思いながら手を付けることができていなかったネタの一つでした。
私の中で千歳はかなり書きやすい部類のキャラなんですが、今回はとても苦しみました…
千歳ってすごく大人の男っぽい部分と、超ナイーブな少年っぽい部分が同居してると思うのですが、その対比とその危うさを言葉にするのがなかなか難しくて。
まだまだ筆力が足りないなと、大いに反省させられました。

ちなみにタイトルはなんとなくエロいなと思いながらつけました。笑
ずっと一緒にいよう、という最後の約束はもちろんですが、居場所をこっそり教えてもらって人目を忍んで一緒に過ごす、それも密約ならぬ蜜約なのかな、と思っています。

少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
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