第5章 銀色の涙〔仁王雅治〕
気づいたら私は、保健室のベッドに寝ていた。
窓から射す光が少し傾いてきている。
ベッドから抜け出してカーテンを開けると、保健医のおばさんが「よく寝たね、もう下校時間になるよ」と笑った。
ひどい貧血だったらしい。
生理だったことと朝食を抜いたことを白状したら、少し怒られた。
利用者名簿に名前を書くよう促されてペンを持ったけれど、うまく力が入らなくて、字ががたがたになって。
名前まで泣いているみたいで、情けなくなった。
もう少しだけ寝かせてと頼んだら、保健医はもう帰ってしまうからと渋ったけれど。
鍵は職員室に預けると食い下がると、折れてくれた。
「言い忘れてたけど、ここまで運んでくれたの仁王くんだから、ちゃんとお礼言っときなさいね」
「え、そうなんですか?」
「そうそう。荷物も制服も持ってきてくれてたから」
「え」
「なに、微妙な顔して。すごく心配そうにしてたから、てっきり付き合ってるんだと思ってた」
保健医はデスクの上を片付けながら、驚く私の顔が面白かったのか、けらけらと笑った。
仁王が助けてくれたことは正直、浮かれるくらいに嬉しかったけれど。
付き合ってるわけないのにと思うと、複雑な気分になった。
一人になった保健室で、夢で見たと思っていたのは本物の仁王だったのかもしれないと思った。
ベッドに横たわって目を閉じると、さっきまで寝ていたのにまた眠気が襲ってきて。
私は引きずりこまれるように眠りに落ちた。