第5章 銀色の涙〔仁王雅治〕
どれだけ冷やして寝てみても、腫れた赤い目は隠せない。
冷たい水で何度も顔を洗う。
鏡の中の自分と目が合って、失恋すると綺麗になるなんて絶対に嘘だと思った。
こんな日に限って生理が重なって、ますます身体が重い。
半ば惰性で学校への道のりを歩く。
さわやかなはずの木漏れ日も海風も、セピア映画のようにどこか色あせて見えた。
教室の自分の机になんとかたどり着いて、突っ伏する。
柳生のデートを見てしまったときよりもダメージが大きいことに、自分でも驚いた。
それは柳生への気持ちがそれほど大きくなかったからなのか、仁王に慰められて傷が軽くなったからなのか、どちらなのだろうと考えたけれど、答えは出なかった。
三限目は体育の授業だった。
体育館でバスケだったからなんとか乗り切れると思っていたのに、いざゲーム形式で走り出した途端に、足元がふらふらとして。
「大丈夫?!」と近くにいた友達が駆け寄ってきてくれたのだけれど、全身の血が抜けるような感覚が襲ってきて、その手を取る余裕もなかった。
頬に感じた体育館の床が冷たくて、朝ごはんを食べずに出てきたことを思い出しながら、私は意識を手放していた。
夢に仁王が出てきた、ような気がした。