第39章 蜜約〔千歳千里〕
こんなに探しても見つからないのはきっと、寮に帰ったからだ。
体調が悪かったのかもしれない、だから教室で寝てばかりいたのかもしれない。
ああ、一言声をかけておけばよかった。
もつれそうになる足がもどかしい。
試合の帰りに何度か通りかかったことがあったから、寮までは迷わずにたどり着いた。
エアコンなんてなさそうな、かなり年季の入った建物。
一階の一室の窓が開け放されていて、その無防備さがなんとなく千歳のような気がして。
もし違ったら今の私は完全に不審者だろうなと思いつつ、背伸びをしてそっと中を覗く。
「…やっと見つけた」
「ん…?」
疲れでかすれた私の声に反応して、広い背中がぐるりと寝返りを打った。
「あ、すまん!」
がば、と起き上がった千歳は、私の必死の形相を見てか、焦ったように部屋へ招き入れてくれた。
千歳のサイズからすると狭く感じる、古ぼけた六畳間。
おばあちゃんの家のような、どことなく懐かしいにおいのする部屋には、千歳が枕にしていた座布団が一枚ぽつんとあるだけだった。
「すまん、探してくれよったとやろ? 体調の悪かったけん、すぐ帰ってきてしまったとよ」
「大丈夫なの?」
「まだ頭の痛かばってんね。寝たらちーとよくなった気のするごた」
「ならよかった。…もう少しわかりやすいところにいてくれると助かったんだけど」
「ほんなこつ申し訳なか」
大きな身体を小さくして謝る千歳がかわいく見えてきて、私は「しょうがないから許してあげる」と笑った。
よかった、いつもの千歳だ。
「そぎゃん探してくれたと?」
「大変だったんだからね! どこ探してもいないから、どっかで死んじゃったかと思った」
「はは、勝手に殺さるっと困るばい」
千歳の長い腕が、私を後ろから包んだ。
いつもより高い体温を、背中に感じる。
千歳も淋しいと思ってくれたのだろうか。
私と、同じように。