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短編集【庭球】

第39章 蜜約〔千歳千里〕


誰よりもたくましく大きな身体をしているくせに、風に吹かれて飛んでいってしまいそうな儚さと危うさがあるのだ。
どこかへ飛んでいったきり、そのまま戻ってきてくれないんじゃないかと心配になるほどに。

人よりずっと高い位置にあるその瞳で、そして人よりずっと澄んでいるように見えるその瞳で、千歳は一体何を見ているのだろう。
私に見えている景色が見えないぶん、他のものを見ているのかもしれない。


「…やだ、どこ」


千歳と過ごす時間は、自分で思っていたよりはるかに大切だったのだと痛感する。
たった一日会えないだけで、こんなにも悲しくて、苦しくて。
ふと、自分が泣いていることに気がついた。
千歳がいない日常なんて、そんなの考えられない。


泣いたところで何も始まらないと思い直して、またあてもなく走り回った。
暗いところは好きじゃないと言っていたけれど、わずかな期待をかけて体育館の舞台袖や体育倉庫まで。
校外に出て、めぼしい公園にもすべて足を運んだけれど、姿はなかった。
やっぱりという思いと、ならばどこにいるのかという疑問が、湧いては消える。
似た者同士だなんて、私の単なる思い上がりだったのかもしれない。


疲れ果てて、六か所めの公園の入り口にあった自販機でスポーツドリンクを買う。
一気に半分くらい流し込んで、はあと大きく息をついた。

ずいぶん学校から離れてしまったなと時計を見ると、白石の要請からゆうに一時間半は経っていた。
ダブルスの練習だと言っていたのに、大丈夫だろうか。
いつもは遅くても三十分以内で戻っているから、みんな心配しているだろう。
何事にも無関心な財前はともかく、銀なんて手を合わせてくれているかもしれない。

銀……、銀?


そうか、と思ったときにはもう、走り出していた。
飲みかけのペットボトルが、ちゃぷちゃぷと手の中で音を立てた。
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