第39章 蜜約〔千歳千里〕
その日を境に千歳は、自分の行き先を私に告げてくるようになった。
それまで捜索活動に費やしていた時間を、一緒に寝転んだり景色を見たりして過ごした。
時間にすればきっと、十分か十五分くらい。
ずっと話している日もあれば、一言も交わさない日もあった。
千歳から手を繋いでくる日は、きっとあのときと同じように淋しいのだろうと、そっと握り返すことにしていた。
あの日以降、千歳は居場所の通告を一度も欠かさなかったのに。
慣れというのは恐ろしいもので、久しくかくれんぼをやっていなかったせいで勘が完全に鈍ってしまったらしい。
とりあえず裏山へと足を向けながら、考えを巡らせる。
今日の千歳は珍しく、全ての授業に出ていた。
それは文字通り本当に珍しいことで、雪でも降るんじゃないかと思うくらいだったけれど、その半分くらいを眠って過ごしていたから、先生にすっかり呆れられていた。
それを横目に見ながら、やっぱり千歳は千歳だな、なんて心のどこかで安心したりして。
てっきり部活に備えて体力を温存しているのだろうとばかり思っていたのに。
今までよくいた場所から順に探して回ったけれど、千歳はいなかった。
裏山にも校舎裏にも美術室にも、もちろん教室にも。
ネタ切れが近づいてきて、ずっと走り続けてきた足が自然と止まる。
どこにいるのだろう。
そう考えた瞬間、どうしようもない不安に襲われた。
ふと下を見たらすごく高いところにいて、命綱もなくひとりぼっちだったことに気がついたときのような、そんな不安。
私は千歳のことを何も知らないのだと気づいたから。
本当に、何も。