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短編集【庭球】

第39章 蜜約〔千歳千里〕


自慢じゃないけど予想はわりと当たったし、当たらなかったとしても決して遠くはないということが多かったから、他の人よりもずっと効率よく千歳にたどり着くことができた。

もしかして運命の赤い糸で繋がっているからかもしれないなんて乙女趣味なことは恥ずかしくてとても言えなかったけれど、きっと似た者同士なのだと思っていた。
他人と馴れ合いすぎないようにどこかで一線を引いている大人っぽさも、私が声をかけると「あちゃー、見つかったら仕方なかね」と笑ってすぐに立ち上がる潔さも、好きだった。




千歳が初めて部活へ行くことを嫌がったのは、五月の終わり。

裏山で昼寝をしていた千歳は、寝返りを打ちながら「今日は行きたくなか」と小さく言って、私に隣へ座るよう手招きをした。
「どうしたの?」と聞きながら腰を下ろそうとしたら腕を引かれて、そのまま千歳の上に倒れ込んでしまって。
身長差でいつも離れたところにある千歳の顔が驚くほど近くにあって、それがあまりに綺麗だったから、一瞬時が止まったかと思った。

「ごめん、重いよね」と謝るより先に、千歳は「ちょっとでよかけん」と言って、たくましい腕で私を抱きしめた。
その消えそうな声が、腕に込められた力が、自分のそれよりずっと速く打ち続ける鼓動が、どうにも放っておけなくて、千歳の肩口に黙って額を預けた。

しばらくして「もうよかよ、すまんかったね」と解放してくれたとき、「前から思ってたんだけど、千歳ってちょっと影があるよね」と投げかけたら、千歳は悲しそうに笑った。

右目がほとんど見えていないのだと言った。
時折それが無性に淋しくなるのだと。
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