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短編集【庭球】

第39章 蜜約〔千歳千里〕


千歳との日常を、さながらかくれんぼだなんて思っていたのは、いつごろまでだったっけ。


「白石ー、千歳おらんでー」
「はあ? またかいな、懲りんやっちゃな…渚、悪いねんけど千歳探してきてくれへんー?」
「えーっ、また?!」
「頼むわー、今日ダブルス練すんねん」
「もう、まだ仕事あるのに。首輪でもリードでもつけて管理しといてよね!」
「それができれば苦労せんっちゅーねん…堪忍な」


きまって鬼は私で、さらに言えばタイムリミットだって。
この理不尽すぎるかくれんぼは、千歳が居場所をあらかじめこっそり教えてくれるようになってから、私たち二人のつかの間のデートへと変貌した、はずだったのに。

え、今日の行き先、聞いてない。

普段はバレたらお互いタダじゃすまないからと思いつつ口にする白石への抗議の言葉は、今日に限ってはほぼ本心だった。




重度の放浪癖を持つ千歳を捜索して部活へ引っ張ってくるのは、毎日の私の役割。
テニス部のマネージャーである以上に同じクラスになったという偶然も重なって、いつの間にか誰もが私に頼んでくるようになった。


周囲の隙を突いて姿をくらます技術は、さすが常習犯としか言いようがない。
今では盗まなくてもよくなったはずの私の目までしっかり盗んでいなくなるのだから、徹底している。
その情熱をもう少しまんべんなくいろんなところに傾ければいいのにと思っているというのは、さすがに秘密だけれど。




私がまだかくれんぼの鬼だったころ、千歳に失踪先を教えてもらわなくても、なんとなく行き先をイメージできていた。

それはたとえば、ぽかぽか陽気の日は野草のたくさん咲く裏山にいるのだろうとか、暑い日は学校裏の滝や池のそばにいるんじゃないかとか、ぼうっと気だるい顔をした日は公園のベンチで昼寝でもしているかもしれないとか。
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