第38章 人はそれを恋と呼ぶ〔桃城武〕
「ていうか桃、一応若いのにマジで病気なの?」
「んなわけねーだろ! なんかそーいうんじゃねーなって…なーんか違うなって思ったわけ」
振る舞いも見た目もこの上なく男くさいくせに、ときどきびっくりするくらいデリケートなのは昔から。
友達の話に聞く限り、オトシゴロの男子ならみんな相手のことを好きじゃなくてもセックスできるらしいのに、いざというシーンで急に繊細さを発揮して心と身体が相反していることに戸惑うなんて、いかにも桃らしい。
「あのさあ、それ、好きじゃなかったってことじゃん」
私がそう言うと、桃ははっと顔を上げて「そーか、そーなのか…?」と自問自答するように呟いて。
やっぱり無自覚だったのかとため息を吐きそうになったとき、桃は私に「渚って、好きなやついんの?」と尋ねてきた。
「桃と一緒にしないでよね、いるよ、好きな人くらい」
「へえー、誰?」
「教えない! 桃が一番知ってるでしょ、私が意外とロマンチストで願掛けとか信じるタイプだって」
「ああ、そういやそうだよな。大会前にいっつもお守り作ってくれるもんな」
にい、と白い歯がこぼれる笑顔に、私は弱い。
この笑顔が見られるなら、少しの我慢なんて苦でも何でもないと思ってしまうのだ。
決して得意じゃない裁縫も、桃が頑張ってくれるなら、喜んでくれるならと、明け方までかかっても頑張れた。
そんなことを思い続けて十八年も経ったなんて、笑ってしまうけれど。