第38章 人はそれを恋と呼ぶ〔桃城武〕
本気を出せば不二先輩や菊丸先輩だって落とせたのだろうに、あえて桃を選んでくるところに、私は直感的に彼女の狡さを見たような気がしていた。
勘ぐりすぎかもしれないけれど、絶対に落とせると踏んで桃を選んだんじゃないかとか、「不二先輩の彼女」じゃなくて「彼女が桃と付き合ってあげている」と言われたいんじゃないかとか。
桃がいかにも安パイだと言われているようで、彼女の価値を高めるためのツールとして使われているような気がしてならなくて、どうにも祝福する気が起きなかったのだ。
私が何を言ったところで、持たざる者の僻みにしか聞こえないから、絶対に口には出さないけれど。
桃が幸せならと、今回ばかりは相手が悪すぎると言い聞かせて、どうにか諦めようとしてきたのに。
それがなんだ、たかだか三回失敗したくらいで一方的に別れるなんて。
うちの桃を馬鹿にするなと、横っ面を張り倒したいくらいだ。
もちろんセックスが恋人たちにとって大切な儀式であることくらいは経験がなくても知っているつもりだし、セックスレスが離婚の正当な理由として認められるのだから恋人たちが別れる理由にだって充分なりえるのだろうけれど。
彼女という地位に就いたのであれば、私が誰より大切に思っている桃を、同じように大切にしてほしかったのに。
さらに腹が立つのは、桃が必要以上に落ち込んでいること。
私に言わせれば桃は被害者なのに、悪いのはあの子なのに。
ここは落ち込むところじゃなくて、怒ってもいいところなのに。
あんな子のために、これ以上桃が悲しんだり嘆いたりしないでほしいのに。
頭に浮かぶのは、どれもこれも言葉にはできないことばかりで。
だからきつい言い方になってしまったのも、正直致し方ない部分があるんじゃないかと思う。