第5章 銀色の涙〔仁王雅治〕
仁王のたくましい腕の中は、とても安心できて、あたたかかった。
綺麗だと言ってくれたのは、たとえお世辞でも嬉しかった。
初めてやったんか、と申し訳なさそうに大きな身体を小さくする仁王を、少しかわいいと思った。
ごめんねとありがとうを言って、部屋を出た。
夏休みがちょうどよく、ほとぼりを冷ましてくれた。
二学期になって、私たちは何もなかったかのように過ごした。
クラスと部活さえ違えば、会わないというのはとても簡単なことだった。
風向きが変わったのは三年になって、仁王と同じクラスになってから。
女の子に人気のある仁王は、噂話が絶えない。
年上の彼女がいるらしいだの、後輩の子と手を繋いでいるのを見ただの、すべて本当なら何股をかけているのかわからないくらいで。
私もその中の一人だったのかと思うと、行きずりだとはわかっていても、胸が痛んだ。
放課後になる頃には、仁王に後輩の彼女ができたらしいと、まことしやかな噂が流れてきた。
毎日嫌でも顔を合わさなければいけないから、何でもないふりをするのがいよいよつらくなってきているというのに。
さっきの光景はやっぱりそういう意味だったのかと、ため息が出た。
家に帰ると、我慢していた涙が堰を切ったように溢れ出して、止まらなくなった。
涙なんてこのまま出し切って枯れてしまえばいいと思ったけれど、泣いても泣いてもまだ出てきて、結局枯れてはくれなかった。