第38章 人はそれを恋と呼ぶ〔桃城武〕
*高校三年設定
「…つまり、彼女に大胆かつ可愛い下着で迫られたのに全っ然勃たなかった、と。一度や二度ならず、三度も」
何が悲しくて幼なじみの下半身事情について語り合わなければいけないのだと頭の片隅で嘆きつつ、あくまで冷静になろうと言い聞かせて私は言った。
「そんなはっきり言うことねーだろ! もうちょっとこう、オブラートに包んでだな…」
「で、挙げ句の果てに捨てられた、と。桃、そういう病気なら早めに病院行った方が…」
「だあーッ! 人が気にしてることをー!」
「ま、そんな程度のことであっさり振られるってことは、彼女は桃のことセフレだと思ってたのかもよ」
「……なんでこんなにズタボロに言われなきゃいけねーんだよ、男のコカンってもんが…」
「股間じゃなくて沽券でしょ、バカ! 見た目に似合わず意外と女々しいんだから、このくらい言わないと切り替えられないくせに」
いつもの元気はどこへ行ったのかと聞きたくなるほどしょぼくれた桃は、HPを使い果たしたかのようにがっくりとうなだれた。
言い過ぎたような気がしないでもないけれど、まあいい。
脳みそまで筋肉でできているだろうこの男には、これだけ言ったってまだ伝わっていないはずだ。
私の考えていることなんて、何一つとして。
ひたすら部活に打ち込んできて、それなりにモテるくせに彼女をつくってこなかった、文字通りのテニス馬鹿。
その桃が、初めての彼女ができたのだと嬉しそうに報告してきたのは三か月近く前、部活を引退してすぐのタイミングだった。
幼なじみとしてたぶん誰より先に、いや、きっと生まれたときから桃のことが好きだった私は、その話を聞いて雷に打たれたくらいに大きなショックを受けた。
なんとなく、桃はずっと誰のものにもならないんじゃないかと思っていたから。
誰のものでもない限りは、私が一番近くにいられるということだと、高を括っていたから。