第37章 この素晴らしき世界〔仁王雅治〕
ようやく練習が終わったのは、かなり日が傾いてからだった。
車を降りて校門の近くで待っていたら、部活のメンバーたちと一緒に出てきたニノくんと視線が絡んだ。
私のことなんて覚えているだろうかと不安に思いつつ軽く頭を下げると、彼は集団からふらりと一人離れてこちらへ向かってきた。
集団からは「えー! あんな綺麗なオネーサン捕まえたのかよぃ!」「すげー、マジうらやましいッス」なんていかにも男子高校生らしい声と、顧問の先生だろうか「け、けしからん!」と怒る声が同時に聞こえてくる。
ニノくんはその声に顔をしかめながらほんの少し振り返って、シッシ、と手だけで彼らを追い払った。
「久しぶりじゃのう、薬のオネーサン」
「突然ごめんなさい。お友達は大丈夫?」
「ええんじゃよ、毎日飽きるほど一緒におるんじゃき」
「先生は怒ってたみたいだけど…」
「先生? …ああ真田か、あれは俺とタメ」
「ええっ!? うっそ!」
「ははは、傑作なんじゃけど」
驚いた私の反応が面白かったのか、彼はお腹を抱えて大笑いしたあと「今日は営業成功したっちゅう顔じゃの」と呼吸を整えるように言った。
「そうなの、ありがとう。どうしてもお礼が言いたくて」
「お安い御用ぜよ」
「本当に君のおかげだから、もしよければ、できる範囲でお礼させてくれないかな」
ぱちぱち、と大きく瞬きをして、彼は小さく「お礼か…」と考える素振りを見せて。
しばらくして「オネーサン、車か?」と私に尋ねてきた。
「そうだけど」
「なら、家まで送ってもらうかな。部活で疲れたき、電車乗るの面倒でのう。ついでに帰りがけにコンビニでジュース奢ってくれん?」