第37章 この素晴らしき世界〔仁王雅治〕
診察券ということはここの患者か、ずいぶんな騒がれようだ。
ニオくん、というあだ名だろうか。
いや「ニノくん」の聞き間違いかもしれない、だとしたらニノくんという名前の男はイケメンだと相場が決まっているのかもしれないと、テレビで見ない日はないアイドルの顔をぼんやりと思い出す。
「んじゃ、どうも」という声とともにガラガラと引き戸が開いた。
後ろ手に軽く手を振って、制服姿のすらりとした男の子が診察室から出てくる。
大人びた見た目は高校生だろう。
大きなラケットバッグを背負っているから、さしずめ手首の腱鞘炎か、テニス肘といったところか。
受付の二人がわかりやすく頬を染めているのが、視界の端で確認できた。
ああ、この子が噂のニノくんか。
確かに芸能人と言われても納得してしまうくらいに整った顔だ。
だらしなくない程度にセンスよく着崩された制服と、少しやんちゃそうな雰囲気によく似合う突飛な髪色。
彼の纏っている自信に満ちた雰囲気から、女の子にさぞ人気があるのだろうと容易に想像できた。
こちらへ歩いてくる彼と一瞬、視線が絡む。
ずいぶん不躾にじろじろと見てしまったことを反省しながら、その鋭い眼光にどきりとして、はたと現実に引き戻される。
しまった、院長先生とのやりとりを待ち時間でシミュレーションしておこうと思っていたのに、受付の二人の話に気を取られていた。
薄々自覚はしていたけれど、私も大概面食いらしい。