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短編集【庭球】

第37章 この素晴らしき世界〔仁王雅治〕


*仁王=高校二年、ヒロイン=社会人一年目設定
*第10章「Body & Soul」(P47〜53)の前日談
*それぞれ単独で読んでいただいても、またどちらから先に読んでいただいても、まったく差し支えありません






よし、と小さく気合いを入れて、車のドアを押し開けた。
九月も終わりに近づいているのに、午後六時の空はまだまだ明るくて、そしてまだまだ暑い。
パンツスーツのジャケットを羽織って、戦闘モードに切り替える。
後部シートの紙袋を引っ掴んで、今日こそはと意気込みながら「本日の診察は終了しました」と無機質なプレートのかかった扉を開けた。


受付の医療事務の女性に挨拶がてら名刺を渡して、空いていた長椅子に腰掛ける。


製薬会社の営業職として入社して半年。
長かった研修を終えて、神奈川の営業所に配属されてもうすぐ二か月。
そろそろノルマも意識してね、という先輩の言葉がやたらとプレッシャーになっているここ一週間。

このこじんまりした整形外科で、ぜひとも契約を取っておきたいところ。
いや、正直に言えばここ以外、今のところはあてがないというのが悲しい現実。
さらに言えば、気難しい院長先生に私はかなり苦手意識を持っているのだけれど、この際そんなことは二の次だ。


待合室には私の他に数人がいたけれど、全員診察後だったようで、会計を済ませて帰っていって、すぐに私一人になった。
奥から戻ってきた医療事務の女性が、受付に座っていた人に小声で、しかし興奮気味に話しかけたのが、しんとした待合室に響いた。


「彼、本当にかっこいいよね」
「ニオくんでしょ、私もファンなの!」
「今日来るってわかってたらもっと早起きしてちゃんとメイクしたのに〜」
「私さっき診察券受け取るとき、ちょっと手触っちゃった」
「え! ずるーい!」
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