第36章 さよならを言うのなら〔跡部景吾〕
泣き顔は見られたくなかったけれど、景吾は私に顔を上げさせる。
「愛してる、って言うんだよ」という甘美な囁きは、私の唇に直接落とされた。
ちゅ、と名残惜しそうな音を立てて離れていった唇が、「ほら、言えんだろ?」と私を急かす。
「…あい、してる」
「ああ、俺もだ。…愛してるぜ、渚」
言葉とは裏腹にキスはしょっぱかったけれど、それさえも愛しくて。
カーテンの向こうの空がだんだん白んできても、私たちは何度も何度も唇を重ねた。
結局朝になってしまって、どうせならとそのまま見に行った新居のマンションにダイヤモンドの指輪が置かれていたのは、また別のお話。
fin
◎あとがき
お読みいただき、ありがとうございました。
そしていつも読んでいただいているみなさま、お久しぶりです!
どたばたの引越しが終わり、なんとか生活できる程度に新居を片付け…
一人暮らしのときにはこんなにも引越しが大変だとは思わなかったのに、人が一人増えるだけで忙殺されそうになりました。
今後も定期的に転勤があるなんて…と今からうんざりしつつ、執筆も徐々に再開したいと思っています!
さて、久々の跡部夢、いかがでしたでしょうか。
引越しで忙しかったからなのか、仕事をしていたときに死ぬほど働いていたことをふと思い出して、こんなお話になってしまいました。
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。