第35章 幸運か、それとも〔千石清純〕
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久しぶりに彼氏と話してみてわかったのは、あの日一緒にいた女の子が本命の彼女で、私は遊ばれていただけだったということだったけれど。
驚くほどあっさりした別れには、悲しみの涙も、怒りからくる震えもなかった。
事務的だと言っても過言ではないくらいの、淡々とした結末。
もう言葉を交わすことはないだろうと思いながら背を向けて、公園を出て歩いていたら、ここ最近で見慣れたオレンジ頭と出くわした。
「え? なんで…」
「メンゴ、心配でついてきちゃった」
笑いながらぺろりと舌を出したキヨは「ちょっと歩かない?」と言って、駅とは違う方の道を差した。
いつかと同じように、一人にさせてよと頭の片隅で思わなかったわけではないけれど、私は黙って頷いた。
知らない道を十分くらい歩いたら、別の公園に行き着いた。
気に入っている公園なのだと、キヨは言った。
空いていたブランコに二人並んで座ったら、鎖がきい、と淋しげな音を立てた。
「これ、使わなかった」とハンカチを返すと、キヨは「そりゃよかった」と笑った。
別れてきたことと、私は単なる遊び相手だったらしいということを伝えると、キヨは「そっか」と言って、他には何も聞かなかった。
「さっき言ったじゃん、女の子はみんな幸せになる義務があるって」
「ああ、うん」
「もちろん思ってるんだけど、ほかにも理由があったんだ。渚ちゃんを励ました理由」
「なに?」
「渚ちゃんのことが、好きだから」
だからさ、君のことは俺が幸せにしたい。
キヨはいつになく真剣な声でそう続けて、空を見上げた。
つられて同じ方向を見ると、キヨの髪と同じ色の夕日が、雲間から覗いていた。