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短編集【庭球】

第35章 幸運か、それとも〔千石清純〕


千石は「そっか」と言っただけで、それ以上何も聞かなかった。
話したら、いくつも抱えた重荷を一つ下ろしたように、少しだけ楽になったような気がした。


「この後も予定ないんだよね? ならゲーセン行こうよ。あ、カラオケでもいいな〜」
「え、帰る…」
「ダメダメ、こういう日はとことん遊ぶって相場が決まってるの!」


結局真っ暗になるまであちこち連れ回されて、家にたどり着いたらへとへとに疲れ切っていた。
ただいまもそこそこに自分の部屋に帰り着いた瞬間、涙が出てきて止まらなくなった。
嵐のようなスピードで変わっていく景色に、泣くタイミングを見失っていたらしいと気がついた。
外で泣かずに済んだのは、千石なりの優しさによるものだったのかもしれない。

見慣れた部屋が、スマホのディスプレイが。
すべてが、涙でぼやけた。






さらに不運だったのは、週明け学校に行ったら、千石と私が付き合っていることにされていたことだった。
何がラッキー千石だ、アンラッキーの塊じゃないか。

どうやら手を引かれていたところを誰かに見られていたらしい。
私が彼氏の浮気現場に偶然出くわしてしまったように、私と千石が一緒にいる場面を目撃されていたって不思議なことなんて何一つないのだけれど、その可能性が完全に頭から抜け落ちてしまっていた自分は、本当に浅はかだった。
後悔したところで手遅れだけれど。


失恋を引きずって午前中は上の空だったから、自分が噂の渦中にいたことにまったく気づいていなくて否定できなかったのは、もう痛恨極まりない私のミス。

根も葉もない噂はいつの間にか、尾ひれどころか背びれやら胸びれまでつけて学校中を好き勝手に泳ぎ回っていて、昼休みにはたと周りを見渡してみたときにはもう手の施しようがなかった。
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