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短編集【庭球】

第34章 サイケデリック・ラブ〔忍足謙也〕


「すまん、着替えてええ?」と言った謙也が選んだ私服は、私は絶対に手に取らないだろうというような、ポップと言えばいいのかサイケと言えばいいのか、とにかく眩しいくらい鮮やかな色の組み合わせだったこと。

でも謙也が着るとなぜかしっくりきて、とても不思議だったこと。

その格好でイグアナを抱いた謙也を見たら、さすがに目がちかちかしたこと。

帰り際にそれを伝えたとき、「そらあかんな、次は気ぃつけるわ」と言って笑った謙也が、直視できないくらい格好よく見えたこと。

そのまま謙也の顔が近づいてきたと思った瞬間、唇だけじゃなくてお互いの歯がぶつかったこと。

まさに電光石火の速さで目を閉じる暇もなくて、気づいたらかちん、と音がしていて、痛みを感じたときには謙也が「す、すまん」と顔を真っ赤にして謝っていたこと。

ファーストキスだったことに気がついたのは自分の部屋に帰り着いてからで、一人で恥ずかしくなって悶々としたこと。


ざっと思い返すだけでもこれだけ書くネタがあるとは、なんて濃密な数時間なのだろう。

それまでの日々がモノクロのサイレント映画だとしたら、謙也と一緒にいる毎日は最新の3Dアクション映画なんじゃないかというくらい、目の眩むような色彩とスピード感なのだ。
それはとても刺激的で楽しくて、少し疲れるけれど、その疲労感は決して嫌なものではなくて。
例えるなら、謙也が好きだと言っていたジェットコースターのような。





お弁当をせっせと口に運びながらそんなことを考えていたら、ラップが急に途切れた。
ピンポン、と短く軽快なチャイムが鳴って、恋人の声が響く。


「二年八組の久保田くん、オサムちゃん…やなかった渡邊センセが呼んではるで〜至急職員室な! 至急やで!」

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