第34章 サイケデリック・ラブ〔忍足謙也〕
昼休みの訪れを告げるチャイムが鳴り終わると同時に、校内放送でラップが流れてきた。
職員室の隣、一階にある放送室までは、教室からかなりの距離があるにも関わらず、だ。
今日の放送委員は謙也なのかと、つい最近付き合い始めた恋人の顔を思い浮かべた。
スピードスターとは彼の二つ名だけれど、本当に言い得て妙だと思う。
なんでも手早くやらないと気がすまないせっかちさが必然的に過密スケジュールを招くから、目が回るんじゃないかとこちらの方が心配してしまうくらい、謙也はいつも忙しくしている。
そのスピードたるや残像が残りそうなほどで、鮮やかな髪色と相まって、どこかキラキラして見えるのだ。
そんな謙也と付き合い始めた私は、そのスピード感に時折置いてけぼりにされながらも、大方彼のペースに巻き込まれている。
私は日記をつける習慣は持ち合わせていないけれど、もし日々のできごとを書き留めるとしたら、謙也と付き合い出してからの毎日は書くことがたくさんありすぎて、一日一ページでは到底収まりきらないだろうと思う。
この前の土曜日なんて、その典型だ。
午前中で部活が終わった謙也と待ち合わせて、初めて彼の家に行ったのだけれど、とにかく驚きの連続だったのだ。
すごく大きな家だったこと。
謙也の部屋にイグアナがいたこと。
部屋に案内してくれてすぐ「飲むモンでも持ってくるから適当に座っとってな」と言い置いて出て行った謙也を見送ったあと、ぐるりと部屋を見回したら、部屋の奥の方に置いてあったドラムセットの横でそいつがのそりと動いて、叫ぶのも忘れて驚いたこと。
それも結構大きなサイズで、鮮やかな緑色で恐竜の生き残りのような、一言で言うとこのご時世の生き物とは思えない風貌で、生気のない目でぎろりと一睨みされた途端、取って食われるんじゃないかと思って、腰が抜けて動けなくなってしまったこと。
お盆を持って部屋に入ってきた謙也とぶつかって、その勢いでお菓子が床にぶちまけられて、大騒ぎになったこと。