第33章 Bittersweet〔仁王雅治〕
私がどれだけ思慮を巡らせていたとしても、仁王にとっては単なる都合のいい女だろうけれど。
それでもよかったし、守りたかった。
たった一言で崩れてしまうような、脆いこの関係を。
「…甘い」
「ああ、さっき友達からもらったチョコ食べたんだよね」
「甘いのは好かん」
「何それ、嫌いなのにチョコせがむの? 変なやつ」
自分からキスしたくせに、味についてどうこう言うのは筋違いでしょう。
そう言おうとしたけれど、仁王がまた溺れるようなキスを仕掛けてきたせいで、言葉はどこかへ消えてしまった。
だんだん思考がぼやけていく中で、いつもよりキスが長いなと、そんなことを思った。
バレンタインという日を仁王と過ごすのは、三度目だ。
今年もまたこの日を共に過ごす相手として選ばれた私は、そこに何か意味を見出すべきなのだろうか。
少なからず特別だと思ってもらっている?
それとも、今日という日を特別視しない私が、後腐れなくて便利だから?
あるいは、意味を見出してしまったが最後、他の女の子たちと同じようにふるいにかけられるのだろうか。
二番手でいようと決めているくせに、心のどこかでは特別な存在になることを諦めきれていない自分が、本当に面倒くさくて嫌になる。
仁王が嫌なのは女のこういう面倒なところなのだろうと思うと、ますます自己嫌悪に陥った。
髪を避けながら耳の後ろに舌を這わせていた仁王が不意に、首筋に歯を立てた。
ちゅく、と水音がして、かりりと鋭い痛み。
仁王にとっては深い意味などないだろうけれど、所有印を刻まれたことが、そしてそれが滅多にないことだけにどれだけ嬉しいか。
勘づかれないように口元をきゅっと引き結んで、すぐさま抗議の声を上げる。