第32章 記憶の中で君を抱く〔越前リョーマ〕*
下着ごとズボンをずり下げる。
はしたない期待に膨らんでいるだろうその芽をそっとさすると、思わず身をよじってしまうほどの刺激が頭の先まで一気に走って、悲鳴に近い声が出た。
「ひゃあッ、んん!」
それでも動き続ける指も、熱に浮かされたような身体も、貪欲に快楽を求めていて。
あとからあとから溢れて止まらない蜜を冷たい指に絡めて、目を閉じてリョーマに弄ばれていることを思い浮かべながら、自分を理性の淵へと追い込む。
少し足を踏み外せばオーガズムへと堕ちてしまうその瀬戸際で、私は無意識に恋人の名前を呼んだ。
「リョーマ…リョーマぁっ」
「…なに?」
返ってくるはずのない返事。
けれどその声はまさに、今の今まで私が想像していたその人のもので。
飛行機は飛ばないと言っていたけれど、とにかくリョーマは日本に帰ってきて、私の部屋まで来てくれたのだ。
止まっていた思考がリンクした瞬間、自分がいかに恥ずかしいことをしていたかに気がついて、全身の血が沸騰したように熱くなった。
「久しぶり。何、してたの?」
「え、っと…」
暗闇に慣れた目が、こちらに近づいてくるその人を捉える。
愛しい待ち人には違いないのだけれど、あなたの枕のにおいに興奮して一人でしてましたなんて、口が裂けても言えない。
合鍵を渡してあることを後悔する日が来るなんて、夢にも思っていなかった。
穴があったら入りたいなんていうのを通り越して、穴を新たに掘ってでも入りたい気分だ。
ベッドに浅く腰掛けたリョーマは、少し伸びたらしい髪をうざったそうにかき上げてから私を見下ろして、もう一度「ねえ、何してたの?」と問いかけてくる。
唇の端を持ち上げたその意地悪な笑みは、さっき私が想像して濡らしたそれと寸分たがわぬもので、ますます私を恥ずかしい思いにさせた。