第32章 記憶の中で君を抱く〔越前リョーマ〕*
寝る体制を取ったのはいいけれど、手足が冷え切ってしまったからなのか、なかなか寝つけない。
羊を三百ちょっと数えてみても効果はなくて、諦めて枕元のスマホを手に取る。
ニュースサイトを開いて「スポーツ」のタグを探すと、たくさんのリョーマがいた。
たぶんドライブBを繰り出す瞬間だろう写真、ガッツポーズの写真、優勝盾を持って勝気な表情の写真も。
ああ、本当なら今ごろ隣にいるはずだったのに。
何もこんな日に限ってストライキなんてやってくれなくてもいいのに。
スマホを放り出して、昼間クローゼットから引っ張り出しておいたリョーマの枕を抱きしめる。
顔を埋めると、ふわっとリョーマのにおいがした。
枕カバーは前に使ったときに洗ったはずだから気のせいかもしれないけれど、なんとなく。
リョーマ、リョーマ、リョーマ。
会えないのずっと我慢してきたのに、まだ我慢しなきゃいけないの?
会いたいよ、今すぐ。
ねえ、リョーマ。
鼻の奥でにおいを感じる部分は脳にほぼ直結していて、だから香りの記憶は鮮烈なのだと聞いたことがあるけれど、どうやら本当らしい。
このベッドで一緒に寝たときのことが、事細かに蘇ってくる。
私を抱き寄せる力強い腕、激しいのに優しいキス、時折降ってくる悩ましい吐息。
それこそにおいから手触りまで、リョーマの全部が。
下着を着けていない胸に手が伸びていたのは、本当に無意識だった。
指がパジャマ越しにその頂をかすめて、ひく、と背中が震えて。
そのあまりにも久しぶりの感覚に、一瞬息を飲む。
そろそろと吐いた息が湿っていることを感じた瞬間、身体に一気に火がついた。