第31章 健全異性交遊のすゝめ〔宍戸亮〕
「私みたいなのが彼女なんて、やっぱ恥ずかしい?」
林が掠れた声でそう言ったのは、駅まであと少しってタイミング。
一応並んで歩いてはいたけど、うまく話す自信がなくてほとんど言葉を交わさずじまいだったから、小さな声だったけどやたらと大きく聞こえた。
「…なんでそうなるんだよ」
「さっきから、ちょっと嫌そうな顔だから」
「んなことねーって」
林が急に立ち止まるから、俺も足を止めて振り返った。
俺を見上げる瞳が少し、潤んでて。
泣く女なんて面倒なだけだって思ってきたけど、林にかかれば例外で、ぶっちゃけ理性なんて粉々になりそうな破壊力。
もう、今すぐここで、感情に任せて抱きしめちまいたい。
けどがっつくのはダサいし、身体目当てとか思われたらそれこそ困るし。
抱きしめたり、ましてやキスなんてしようもんなら、ほら、ちょっと止まれなくなる気、するし。
好きだからちゃんと大事にしたいし…そういうことは。
きっと腕の中に閉じ込めたら、あのシトラスの香りが腹一杯吸えるんだろう…って、こんなときに何考えてんだ、俺は。
「本当?」
「嘘つくかよ、こんなとこで」
「…じゃあ、亮って呼ばれるのは?」
亮、って名前呼ばれた瞬間、ぶわっと身体が熱くなった。
さっき部室で感じた熱とは違う、心地いい熱さ。
なんだこれ、名前呼んでもらうのってこんなに嬉しいもんだったのか。
「…嫌?」
「嫌じゃねえよ、その…ちょっと驚いた、だけで…嬉しいぜ、俺は」
「…よかった」