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短編集【庭球】

第31章 健全異性交遊のすゝめ〔宍戸亮〕


俺と付き合い始めてから、林が長太郎とも自然と仲良くなったのはわかってた。
その方が俺もやりやすいし、「他の男と話すな」とかそんなこと言って縛りつけるようなこともしたくないと思ってた。

けど、こいつら二人とも名前で呼び合ってたっけ。
俺らはまだ苗字で呼び合ってんのに、いつの間に。


二人の仲を疑ってるとかいうんじゃねえけど、これまで気にならなかったことが急に気になっちまって、すげえざわざわする。
さらに悪いことに、そのタイミングでちょうど二人の声のトーンが落ちて、何話してんのか聞こえなくなった。
背の高い長太郎が林に顔近づけてひそひそ話してんの想像したら、身体に火がついたみたいに熱くなって。


落ち着け、落ち着け、俺。

手の中にあった着替えの最後の一枚を、力任せに握った。
目を閉じて何度か深呼吸して、しわくちゃになっただろうTシャツをロッカーに投げつけて、扉を蹴り飛ばして閉める。
バン、ってすげえ音がして、少し正気に戻った気がした。



部室のドアを開けたら、こっちに背を向けてた長太郎が「あ、宍戸さん」って振り返った。
いつもなら「よう、バーガーでも食いに行くか」くらいのことは言ってるタイミングだと思うけど、出てきたのは「ああ」ってそっけない言葉だけ。
すぐに視線を逸らした俺を見て、察しのいい長太郎は、何か言いかけたような口をそのまま閉じた。
長太郎の影から見えた林は、テニス雑誌を読んでたみたいだった。


「…おい、帰んぞ」
「えっ、うそ、待ってよ、もう!」


さっさと歩き出した俺に、林はぱちりと大きく一回瞬きをして、心底驚いたって顔をした。
二人でいるところをこれ以上見たくなくて、自然と足が早まる。
「長太郎くんごめん、これありがと。じゃあね」なんてせわしない声を背中で聞きながら。
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