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短編集【庭球】

第30章 背信ペットの処遇について〔幸村精市〕


「なんで」
「なんでって?」
「だって、今はテニスが大切だって、断ってた」
「……見てたの? お前、金曜の」


しまった、と思ったときにはもう遅くて、口を滑らせてしまった自分の不用意さを呪った。
「見るつもりはなかったんだけど、偶然」となんとか弁解はしたけれど、幸村は「悪趣味だな、覗きなんて」と綺麗な顔を惜しげもなく歪める。


「それに、テニスなんて一言も言ってないし」
「え?」
「本当にバカだなあ。大切なものがあるとは言ったけど、テニスじゃない」
「………」
「渚のことだったんだけどな。これだからバカは困るよ、犬の方がまだ賢いんじゃない?」


驚きすぎて口を中途半端に開けた私を、幸村は一瞥して笑った。
ああ、嫌な予感がする。


「他人の告白現場を覗き見したことも、勝手に勘違いして勝手に髪を切ったことも、許されることじゃないな」
「それは、本当に…ごめんなさ」
「罰として、これからも俺の隣にいてもらわないとね」


私の謝罪を遮って言い切った幸村は、花のように笑った。
零しそうになってすんでのところで止めたため息に、安堵と不安が入り混じっているのを感じた私の笑顔は、幸村とは対照的に力ないものだったに違いない。


fin






◎あとがき

お読みくださいまして、ありがとうございました。
超久々の幸村、いかがでしたか?

個人的に難しいキャラというのがありまして、その筆頭が幸村です。
というか植物組は全員難しいですね、なんか闇が深すぎて踏み込めない。
しかもブラックな面を押し出して書こうとするとどうもギャグに転んでしまって、ずいぶん苦しめられました…
とか言いつつ、ぶっちゃけどのキャラも難しいんですけどね!笑

少しでも楽しんでいただければ幸いです。
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